自社製品の良い面だけ見ていない? -さまざまなバイアス-

心理学

「Human Resarch Lab 」では、「健康」「医療」を主たるキーワードとして、心理学研究の枠組みでご紹介していきます。企業のマーケティング、広告宣伝といった広告・PR部門の方や心理学にご興味ある方にお役立ていただければ幸いです。

今回は、「自社製品(サービス)の良い面だけ見ていない?」がテーマです。

 

皆さまの会社ではどのようなプロセスを経て製品やサービス開発をされているでしょうか。

開発・研究部門から、“いい素材があったから” “いい技術があったから”というきっかけで製品化(=プロダクトアウト)されていますか?

それとも、“こんなのがあったらいいな” “こういうのが必要だという生活者の声などをもとに製品化(=マーケットイン)されていますか?

どちらのパターンもあるかと思います。そして、製品設計が完了し、その新製品をローンチする(世に出す)時、広告コミュニケーション戦略を考えます。その際、特に気を付けないといけないのは、プロダクトアウト、マーケットイン、どちらかによってそれぞれのバイアス(偏り)が生じやすいということです。

「バイアス」(bias)とは、偏りや先入観のことです。人間はバイアスの塊です。そしてバイアスの種類も多く存在し、複数のバイアスが重なり合って一つの決断、行動をしています。そのため、「こういう場合はこのバイアスが生じる!」と簡単に断言できるわけではありません。

今回は、バイアスについて少し概要をご紹介し、主に生じやすいと考えられるバイアス現象を紹介していきます。

プロダクトアウトのバイアス

研究・開発部門とか、経営陣とか、どの組織からでもよいのですが、いずれにしても「組織内のどこか」からの発案で製品が開発されることがあると思います。その、開発に至るまでのさまざまな苦労話や、利害関係者における説得に苦慮したエピソード、はたまた、組織内の発案者からその製品の魅力を存分に聞いたり…ということで、そもそもローンチの段階で、どっぷりとその製品へお思い入れができがちです。

Cold-to-Hot Empathy Gap

こういった場合、1つ目のバイアスとして「Cold-to-Hot Empathy Gap」 1)という現象を紹介します。人は感情状態によって自分の行動や嗜好を誤って予測することが明らかになっています。感情的に「Cold」状態にあるとき、「Hot」状態が自分の嗜好や行動にどのような影響を与えるかを十分に理解することができないのです。Cold-to-Hot Empathy Gapとは、簡単に言うと、「Hot」状態にあるときはその状態の影響を過小評価し、「Cold」状態を想像ができないのです。今回の例でいうと、組織内の様々な人から熱いヒストリーを聞き続け、苦労を共有した結果、「Hot」状態になっています。そして、逆にまったくその製品を知らないお客様が「Cold」状態であり、置いてきぼりになりがち、ということです。良い製品を世の中に出しても、冷静に生活者ニーズを把握できず、独り(会社)よがりのコミュニケーション戦略となってしまい、お客様の心にうまく響かない…そんなことも有るかもしれません。

確証バイアス Confirmation bias

次に、「確証バイアス」2)も考えられます。確証バイアスとは、自身の都合のよい情報を集めて、逆の考えや情報は排除し、自身の信念や考えが正しいとするバイアスです。自組織の仲間たちに、「この機能が必要だ、こんな良い技術が開発できた」と熱弁をふるってもらったら、マーケ担当やPR担当としては、何としてでも売れるように頑張らなくては、と思うのは仕事仲間として当然かもしれません。しかし、あまり意識しないと、情報収集に偏りが出がちです。特に“この製品が世の中から求められている”という事前情報を多くインプットされた後は、それに合致した購買ストーリーやカスタマージャーニーを想定しがちです。その結果、収集した情報は偏り、冷静に製品と向き合えなくなることも考えられます。さらにこの傾向が強くなると、発売後のユーザーや、購買予備群からのあらゆるネガティブな評価が想定できにくくなる可能性があります。

確証バイアスについてのわかりやすい例として、血液型と性格の関係があります。私が心理学を研究した筑波大学大学院カウンセリング学位プログラムで、対人社会心理学の講義をしていただいた松井豊先生が血液型と性格の研究をされています。皆さまもABO式血液型について、A型の人は”几帳面“、O型は”おおざっぱ”などということを、言われたことや言ったこともおありでしょう。はたして、人間の全身をめぐっている赤血球のほんの少しの抗原の違いで性格に差が出るのか、医療人の一人としても、心理学を研究している一人としても甚だ疑問に思うのですが、それでもついつい、細かくきっちり仕事をしている人を見ると“A型かな”なんて想像してしまいます。

しかし、松井先生をはじめとする多くの研究者により、血液型と性格の関係性は否定されています(5

つまり、血液型と性格は関係がないということなのです。となりますと、細かくきっちり仕事をしている人を見ると“A型かな”というのは典型的な確証バイアスの一つと言えるでしょう。この確証バイアスの怖いところは、逆の考えや情報は排除、つまり【例外化】してしまうことです。例えば、このきっちり仕事をするA型の人の机の上が、書類山積みで、決してキレイだとは言えない状態だとします。それでもその事象は例外化してしまい、この人は几帳面だというように評価してしまうのです。ちなみに、特定の血液型の人の性格(パーソナリティ)に対する知識や信念のことを心理学では「血液型ステレオタイプ」といい、血液型と性格の関係を肯定的にとらえているタイプのことを言います。

広告戦略に置き換えてみると、「このサプリメントは女性向けだから、ピンクのパッケージにしよう。女性はピンクが好きなはずだから」と。確かにピンクが好きな女性もいますが、必ずしもそうではありません。仮に事前調査で、「パッケージ全体のピンクが強すぎて私は嫌いだ」というコメントがいくつかあったとしてもそれに目を向けない、ということもあるかもしれません。もし高級サプリメントであるとしたら、ターゲットを想定したピンクよりも、価値をイメージするゴールドをキーカラーにした方が良いかもしれませんが、そういった発想にも至らないことも有るかもしれません。

広告戦略だけにとどまらず、発売する製品の市場を見てみた時に、もしかしたら類似製品がすでに海外で発売されていて、何かネガティブな評判がある、などといった情報に触れる確率も低いかもしれません。今はインターネットでいくらでも情報アクセスできるので、国境を越えた評判も調べようと思えば容易に調べることができます。渾身の一製品を発売するときには、あらゆることを調査し、受け入れ、その上でどういう戦略を取っていくのかを考慮することが大切だと思います。

Column ネットの世界で起きやすい確証バイアス

確証バイアスは、特にインターネットの世界で起きやすいとされています。自分の事前情報を元に検索を進めたり、自身の検索履歴からSNSのフィードやリスティング広告に表示されることから、自身の興味関心の範疇に置いての情報接触が多くなるとされています。これは別の記事で詳しく解説いたします。

マーケットインのバイアス

ハロー効果 Halo effect

マーケットイン、つまり、お客様やインフルエンサー、ないしはその業界のオピニオンリーダーなどから、「こういう製品が私たちは欲しい」「こういう製品がこの市場には必要だ」といった要望をもとに製品化することです。この場合に考えられるバイアスの1つは「ハロー効果」3)です。

ハローとは「後光」のことです。ハロー効果とは、何か1つ優れた特徴があると、他もすべて優れているように評価してしまう、というバイアスです。特にインフルエンサーやオピニオンリーダーは一定の影響力がある方たちです。その方々から、市場性を鑑みて、製品開発のヒントを得た場合、確かにある領域では様々な実績や功績が評価され、素晴らしい成果を上げているかもしれませんが、製品開発においてはそうとも限りません。もちろん重要な視点を持っていることには間違いありませんが、「○○教授がおっしゃったから、間違いなくこの製品は世の中に必要だ!望まれている!」というように思いこんでしまってはないでしょうか。また、どんなにヘビーユーザーでも、SNSで何百万人のフォロワ-のいるインフルエンサーでも、社外の人は基本的に、売れるか売れないかはそこまで熟慮せずに、ある意味自由に発言します。確かに大事なヒントです。「これが絶対必要です!」という声が聞こえてくると、「この方がおっしゃるなら間違いなく売れるはず!」と思ってしまうのは仕方ないことかもしれません。確かに重要な情報ではありますが、n=1から数名の意見はまず、検討の出発点として考えることが重要だと思います。果たしてこの製品は市場性はあるのか、売れるのか、そう検討することが、ある意味マーケ担当やPR担当の役割なのですね。

共通で考えられるバイアス

内集団バイアス in-group bias

プロダクトアウト、マーケットイン、どちらにしても起こりうるバイアスは「内集団バイアス」4)です。これは文字面から想像しやすいかもしれません。内集団バイアスとは、同じ集団(内集団)はその集団以外の集団(外集団)よりも好意的に評価しやすい、というものです。内集団びいき(in-group favoritism)ともいいます。

実は自社の製品は間違いない!他社よりも優れている!というような思考に陥りがちなのです(ある意味大切なことでもあるのですが)。さらに言うと、同じ会社で自身の担当する製品と同じカテゴリの製品が、他事業部から発売するとなった場合、自身の担当製品の方がいいに決まってる!あちらの事業部が出すのは二番煎じだし、××だし…と、内集団のサイズが「会社」より小さくなり、「事業部」というサイズになって生じるバイアスもよくあります。

バイアスを最小限にする方法

ここまでで、「Cold-to-Hot Empathy Gap」「確証バイアス」「ハロー効果」「内集団バイアス」 という4つのバイアスを紹介しました。これらのバイアスを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか?

答えの1つに、「市場調査」があります。どんなに良い製品でも、その製品の評価は人それぞれです。冷静に、発売前のユーザー調査を必須とすることがバイアスを回避できる一つの方法です。まずはユーザー層にあった調査対象者を的確にチョイスするということが重要です。そしていつも同じ集団に調査を依頼しては、それもバイアスの原因になります。

また、最初はインタビュー調査をする会社も多いと思いますが、インタビュアのバイアスも排除しなくてはなりません。いくら事前に綿密に調査票を作りこんだとしても、インタビュアが常に中立に聞き取りができる能力がないと、無意識の同調をしたりすることで、バイアスがかかってきます。

また、WEBアンケート調査も、中立に設問を設定する必要があります。よく調査の設問を恣意的に自社製品にとって有利に評価されるような設計をされているものもあるようです。しかし、私は実態を把握することが最優先だと思います。まず製品の特長、他社との差別化ポイント、ポジショニングなどを冷静に評価し、その上でもう一度、自社の望ましいストーリーに合うようなデータを取るとよいでしょう。発売前調査は、できる限りバイアスを排除し、これから売り出す製品の特性をより的確に把握することが、ローンチするためには重要だと私は思います。

まとめ

人間にはさまざまなバイアスがまとわりついています。これは仕方のないことで、誰にでもバイアスはあります。大切なのは、そのバイアスを自覚して、中立である姿勢、事実を把握する姿勢、これを忘れずににいることです。

自身の担当する製品のネガティブな意見・考えも把握した上で、ローンチのストーリーや広告計画を立てていくと、バイアスに負けない、よりよい結果に近づいていくと考えられます。

心理学は、医療と同様「絶対」や「100%」こういうものだ、という完全な表現ができることはありません。当ブログに書かれているものも一部です。その点をご理解の上、日々の業務にご参考にしていただければ幸甚です。

参考文献

  1. Loewenstein, G. (2005). Hot-cold empathy gaps and medical decision making. Health Psychology, 24(4, Suppl), S49–S56
  2. Nickerson, Raymond S. (1998), “Confirmation bias: A ubiquitous phenomenon in many guises”, Review of General Psychology, 2 (2): 175–220
  3. Thorndike, E.L. (1920). A constant error in psychological ratings. Journal of Applied Psychology, 4(1), 25–29.
  4. Tajfel, H., Billig, M. G., Bundy, R. P., & Flament, C.1971. Social categorization and intergroup behavior, European Journal of Social Psychology, 1, 149-178
  5. 松井豊(1991) 血液型による性格の相違に関する統計的検討 立川短期大学紀要, 24, 51-54

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