Chat GPTの健康コンテンツへの活用の道 -生成内容の検証実例と共に-

健康TOPICS

この記事は、広告宣伝・PR用のWEBコンテンツやパンフレット、映像などの制作に携わっている広告関係の部署や、ブランドマーケティングの部署で活躍されている方に、お役立ていただけるようなヒントを、「心理」「医療」を専門として広告会社にいる立場から、ご紹介していきます。

今回は、「Chat GPTの健康コンテンツへの活用の道 -生成内容の検証実例と共に-」がテーマです。

 

今、WEBの世界中を賑わしている技術といえば「Chat GPT」ではないでしょうか。

Chat GPTは、OpenAIが開発した大規模な言語モデルです。GPTは「Generative Pre-trained Transformer」の略であり、深層学習技術の一種である*トランスフォーマーを基にしています。

Chat GPTは、大量のテキストデータを学習して自然言語処理のタスクを遂行することができます。それにより、質問応答や対話の生成など、様々なタスクに対して人間に近いレベルでの対話能力を持つことが特徴です。

Chat GPTは、ユーザーからの入力に対して適切な回答や応答を生成するために、前の文脈や文脈に基づいた情報を活用します。訓練時には、大量のインターネット上のテキストデータから学習され、多様なテーマや知識に対して幅広い理解力を持つように設計されています。

ここまでお読みいただいた皆さんは、“ふむふむ、ChatGPT”とはこういうものか、と理解いただいたと思います。

実はこれ、Chat GPTに“Chat GPTとは?”と質問した回答の一部なのです(緑色の背景部分のテキストです)。そう、このように、適切な日本語を用いて、簡潔に、適格にまとめられています。

まだ利用されたことない方は “すごい!!こんな文章が書けるなんて!!これなら仕事にもいろいろ役に立ちそうだ” と心が揺さぶられたのではないでしょうか。

この技術はまさにAI(Artificial Intelligence 人工知能)の最先端に位置づけられ、ある意味人類においての「カルチャー・ショック」にあたるとも言えます。

カルチャー・ショックに直面した時の、適応へのプロセスは、Lysgaard (1955)1)のU字曲線に始まり、Oberg (1960)2), Smalley (1963)3), Foster (1973)4),Taft (1977)5), Adler (1975)6)などの様々な研究者によって検討がなされています。

それぞれの研究者ごとに主張・表現がわずかに異なるのですが、最初の段階でよく用いられるのが【ハネムーン期(honeymoon stage)】です。ChatGPTは今まさにハネムーン期ではないでしょうか

つまり、この新しい技術に惚れ、いろいろ試してみたり、使い方を工夫してみたり、自分なりの辞書となるように回答を蓄積していったり…。(しかしやがてこのハネムーン期は拒否期(rejection stage)となっていくのですが)

ChatGPTのメリットやデメリット、使いこなし術やリスク回避についてはAIやデジタルを専門にしている方々にお任せし、私の方では、ヘルスケアを専門としている目から見て、とても素晴らしい技術だと思った一方で、注意しながら使う必要があるな、と思った点がありますので、実例を元に私なりに検証した内容をご紹介したいと思います。

実際、「ChatGPTに薬について聞いてみた」のような記事は他にも検索すればすぐに出てきますが、単に”ここがダメ””こんな間違いをする”という指摘だけでは、こういった新しい技術の活用がどんどん遅れるだけになってしまいます。ヘルスケア関連の方々がChatGPTを活用しようと思ったときに、参考になれば幸いです。

 

ChatGPT×専門的アドバイス

雑誌の特集で、以下のような記事がありました。
パナソニックコネクトでは、ChatGPTを業務にいち早く取り入れており、その利用シーン紹介されていました。

パナソニックコネクトで使われるChatGPTの利用シーン全15例
1. 会議進行のアドバイスを聞く
2. 専門的なアドバイスを聞く
3. ビジネスアイデアを聞く
‥‥(他全15例掲載)

PRESIDENT 2023.6.30号

これを読んだ私は、専門的なアドバイス!?と驚きました。ということは、私がある程度判別できる専門的な話というと、まずは医薬品についてなので、それについて聞いてみようと思いました。適切な答えが出てきたら、なんて便利なんだろう!!という驚きもありますし、一方で人間の存在価値が危ぶまれるな、というように、期待と不安を交えながら、入力してみました。

『花粉症に効く薬は?』といったプロンプト(ChatGPTに与えるコマンドのこと。質問や命令だと思ってください)について、以下のような文章が生成されてきました。

確かに網羅的に回答が得られました。

パッと見る限りでは、なるほど、と思います。医師や薬剤師でなければ、確かにそうなんだ、これは辞書的に使える、すごい!と思われるかもしれません。

そこで一つ一つ校閲的な視点で、(大人げないですが)この回答に問題点を指摘しつつ、どうやってChatGPTの間違いに気が付き、上手に付き合っていくべきなのか、考えていきたいと思います。

提示された4項目は並列関係にあるか?

生成された回答は、以下の4つでした。

  1. 抗ヒスタミン薬
  2. 鼻炎薬
  3. 副腎皮質ステロイド薬
  4. 免疫療法

1. 抗ヒスタミン薬と3.副腎皮質ステロイド薬は、確かにそういったカテゴリの医薬品はあります。しかし、実は2.鼻炎薬というカテゴリの薬は厳密には存在しません。ただし、「点鼻薬」というカテゴリはありますが、こちらは「内服薬」「吸入薬」などと並列関係にあるもので、鼻に直接スプレーする剤型のことです。薬の成分のカテゴリとは異なります。あくまでも、アレルギー症状としての、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの鼻炎症状に効く薬として「抗アレルギー薬」や「抗ヒスタミン薬」がありますので、鼻炎薬という表現は正しくありません。

※ただし、『鼻炎薬』という呼称で市販の医薬品(OTC)はあります。アレルギーを抑える成分が入っており、鼻炎の方に良いような剤型や服用方法の工夫がなされていて、広告的にも『鼻炎薬』とうたった方が一般の方にはわかりやすいため、一般的にはよく使われている用語です。厳密にいうと成分のカテゴリを示しているわけではない、という意味での指摘であるとご理解いただければと思います。

順序には意味があるはず -初頭効果ー

通常、文章でいくつかの要素や項目を並べるときは、意図を持って順序を決めます。通常は重要なもの、広く該当するもの、が最初に来ます。ちなみに、心理学で「初頭効果(primacy effect)」8)9)というものがあります。初めに接触した情報は記憶に残りやすいということです。そのような効果があることも考えると、最初に重要なものを持ってくるのには理由があります。つまり、ChatGPTは、抗ヒスタミン薬が一番重要だという解釈をしたんだな、と普通は思ってしまうわけです。

それが正しいかどうか?ということについては考え方はいろいろですが、まずはそれを検討するためには、医師・薬剤師が初めにたどる情報ソースを確認してみる必要があるでしょう。それは一般的には「診療ガイドライン」です。

ガイドラインは、学会や臨床で活躍されている有識者が、診療の標準化を目的に、該当する疾患のガイドラインを作成し、年々更新しています。今回は、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 鼻アレルギー診療ガイドライン委員会によって作成された「鼻アレルギー診療ガイドライン -通年性鼻炎と花粉症-」10)をたどるべきだと考えます。この中では、花粉症の治療における選択薬が段階的に示されています。

その内容を確認してみると、確かに最初には第二世代抗ヒスタミン薬とあります(鼻アレルギー診療ガイドライン 2023年版 P73)。ということは、1つ目として提示することは、正しい、ということになりますが…

専門家はごっちゃにしない情報

抗ヒスタミン薬: 抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応を引き起こすヒスタミンの働きをブロックするため、くしゃみや鼻水、かゆみなどの症状を軽減します。一般的な抗ヒスタミン薬には、セチリジン、ロラタジン、ディフェンヒドラミンなどがあります。

ChatGPT 2023.6.28 「花粉症に効く薬は?」プロンプトに対する生成された回答の一部

まず一つ目に例示された抗ヒスタミン薬について。これについては大枠で正しいですが、細かな視点からは誤解を招くものであり、正確性があるとはいえません。ChatGPTが例示した3つの成分のうち、最初の二つは第二世代抗ヒスタミン薬。最後のものはおそらくジフェンヒドラミンのことですが、これは第一世代抗ヒスタミン薬です。第一世代も第二世代もひっくるめて、抗ヒスタミン薬として明示したという意味では間違いではありませんが、精度は高くない情報といえそうです。

なぜなら、医師や薬剤師で、第一世代と第二世代をひっくるめて議論する人は少ないからです。第一世代抗ヒスタミン薬と第二世代抗ヒスタミン薬は、最終的にヒスタミンを抑えるということ以外は、作用や位置づけが全く異なり、別物ととらえているからです。

カテゴリとしては存在していない

鼻炎薬: 花粉症による鼻づまりや鼻炎の症状を緩和するための鼻炎薬も利用されます。鼻炎薬には、抗ヒスタミン成分を含むものや、ステロイド薬を含むものがあります。市販の鼻炎薬には、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、フルチカゾンなどが含まれます。

ChatGPT 2023.6.28 プロンプト「花粉症に効く薬は?」に対する生成された回答の一部

次に、ChatGPTが2番目に挙げた、いわゆる『鼻炎薬』についてどのように文章を生成しているのかというと、ここでは「鼻炎薬には、抗ヒスタミン成分を含むものや、ステロイド薬を含むものがあります。」とあります。つまり、4つのうちの、1と3を包括した説明になっているのですね。

さらに、後半は市販薬の話になっています。ここで挙げられた成分の、オキシメタゾリン、キシロメタゾリンは血管収縮薬、つまり鼻づまりに効く成分のことです。フルチカゾンは、ステロイド薬で、これは日本では一般の方が買えるようなOTC薬として、市販はされていません。この時点でもうこの項目は、あまり参考できる情報はなさそうです。

ステロイド薬は鼻炎にも使うけど…

副腎皮質ステロイド薬: 重度の花粉症の場合や、他の治療法が効果的でない場合には、医師の処方に基づき、内服または吸入ステロイド薬が使用されることがあります。これらの薬は炎症を抑え、アレルギー反応を軽減します。

ChatGPT 2023.6.28 プロンプト「花粉症に効く薬は?」に対する生成された回答の一部

確かにステロイド薬を花粉症に使用することはあります。それは点鼻薬としての使用です。花粉症でステロイド薬を内服することはありません。なぜなら、花粉症でのステロイド内服は保険適用(保険で処方してもよいとされる疾患)がありません。ましてや吸入で使用することはありません。ステロイド薬の吸入薬は気管支喘息に用いられるのであって、花粉症に用いられることはありません。

また、とても細かいことなのですが、私は「副腎皮質ステロイド薬」という言葉に引っかかりを感じます。以下少し専門的な話になります。

腎臓の上にある、副腎という臓器の副腎皮質から分泌される成分を「副腎皮質ホルモン」といい、その中でも、糖質コルチコイドという、化学構造としてステロイド骨格をもつものを「ステロイド」といいます。医薬品成分はこれを模して合成されて配合されています。「副腎皮質ホルモン」「ステロイド」いう言葉は使うのですが、「副腎皮質ステロイド薬」とはあまり言わないのです。こういった、専門的なリテラシーについても我々人間が醸成してかなくてはいけないんだ、と改めて考えさせれられました。

薬を聞いているのに療法を提示

免疫療法: 重度の花粉症に対しては、免疫療法(アレルゲン免疫療法)が考慮されることもあります。これは、徐々に増やしていくアレルゲンの投与によって、免疫系の反応を調整し、花粉症の症状を軽減する効果が期待されます。

ChatGPT 2023.6.28 「花粉症に効く薬は?」プロンプトに対する生成された回答の一部

この記述自体は間違っていないかと思われます。しかしながら、プロンプトは「花粉症に効く薬は?」ですので、ここで「免疫療法」という治療法をこたえるのは適していません。免疫療法を紹介するなら、他にもっと挙げるべき薬があるのです。ただし、この免疫療法を行うのに使用するのは、スギ花粉舌下錠などの医薬品ですので、まったく薬を使わないわけではないのですが、情報としては整備する必要があると思われます。

専門的情報を活用していいのか?

ここまで見てくると、冒頭に紹介しました、パナソニックコネクト社の例は、本当に専門的情報を参考にするためChatGPTを利用しているのかと疑問に思ってします。しかし、実は掲載された雑誌の情報には少々言葉が足りないことが分かりました。

同社は法人向けChatGPTを利用し、社内活用の利便性を向上するため、パナソニックコネクト社として、独自の機能を搭載されているとのことです。そのうちの一つとして社員さんの利便性向上のため上記にあった15項目を活用サンプルとして確認できるようにした(MONOistより)とのことで、カスタマイズしているのですね。つまり、無料版で同様のことは期待できないと言えそうです。

そして、前述した医薬品に関する間違った数々の記述。こちらは一つ原因が考えられます。それはChatGPTがアメリカで開発されたソフトウエアであるということです。つまり日本語で入力しても、日本についてのことを質問されていると認識していない可能性があります。実際、日本では販売されていない薬であっても、アメリカでは販売されているものもあるということです。承認基準が異なりますので当然のことです。先ほど記述したフルチカゾンは、日本では市販されていないとしましたが、アメリカでは市販されているのです。

そのため、ある程度は間違いでないところもあります。もし本気で業務に活用を検討されるなら、“日本で花粉症に良い薬は?” ”What are the best medicines for hay fever in Japan?” などと聞いてみるなど、英語を用いながら活用することが、ChatGPTを味方につける近道かもしれません。

ChatGPTは気まぐれ

ここまでご覧いただき、ChatGPTを、医薬品、健康食品、化粧品といったヘルスケアに関する内容において頼るのは、やはりまだまだ注意して確認しながら利用する必要があるということがお分かりいただけたかと思います。

さらにChatGPTは “一般的な情報を挙げる” ”専門家に相談することが重要“ ”症状の程度や個々の状況によって異なる“ といったリスクヘッジを必ず前後に加えるようになっています。そのため、その中の文書がより、確からしい情報に見えてしまうのです。

さらに困ったことに、ChatGPTは気まぐれなんです。

先ほどの花粉症に良い薬は?をもう一度続けて質問してみました。

残念ながら答えが異なります。その都度、答えが異なるのです。

このように生成AIは、予め与えられた情報を元に、確からしい文脈を組みあわせて生成するという仕組みであるため、吐き出された情報が正しいわけではありません。辞書的に使うことはできないのです。

特にヘルスケア分野のような専門情報については、作文には向いていると思いますが、情報の確からしさについては、1つ1つ確認する必要があると思っていただければと思います。

今後、自身で確かな情報をどんどん学習させて、気軽に自身の秘書のように使えるようになると便利だな、と思います。

まとめ

脳科学者の茂木健一郎さんが「100年に一度の衝撃」と語るChatGPT。このような素晴らしい技術を活用しない手はありません。しかしながら、健康に関する情報については慎重にする必要があります。現在はハネムーン期にある今だからこそ、活用する方法を見出し、皆さんご自身の専門分野においては、その知識やご経験を発揮して様々なクリエイティブ創出に生かしていただけるのではないかな、と思います。

本ブログ記事は、2023年6月28日時点でのChatGPT 無料版に基づく考察であり、いつでも同様の内容が生成ということではありません。技術は進化していくものだと思いますし、ご利用される時点でその都度ご留意いただきながらご活用ください。

心理学は、医療と同様「絶対」や「100%」こういうものだ、という完全な表現ができることはありません。当ブログに書かれているものも一部です。その点をご理解の上、日々の業務にご参考にしていただければ幸甚です。

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